Nさんの父親は、怪奇現象というものが大嫌いだなのだという。

そういう類の読み物はおろか、映画やテレビ、特集番組もゆるしてもらえたためしがない。

徹底していた。

Nさんが中学生の頃部活帰りの道で偶然父親と会った。

畑仕事の帰りだという。

一緒に帰ることにした。

喋りながら二人で歩いているとふと、前方の山あたりにふわふわと何かが飛んでいるのに気付いた。

鳥にしては丸い。

ごみかと思ったが浮遊するほど軽いものには思えない。

目をこらすと、それは人の頭部だった。


生首が飛んでいる。


驚いて父親を見ると、父親もそれが見えているらしい。

茫然としている。

あれが見えるかと尋ねると見える、と返ってきた。


「あれ生首やんな!?」


Nさんがそう同意を求めると、父親は少し黙った後こう言った。



「UFOや」



は?

と、思った。


「何言うてんのん、あれ首やん」

「UFOや」

「生首やんか」

「UFOやて」

「どこをどう見てUFOやねん!!めっちゃ首やん、よう見て!!」

「UFOや!!宇宙人乗ってんねん!!」


言い合いをしている間に、それはいつのまにかなくなってしまっていたという。


「うちの父さん、怪奇現象全般嫌いやけど、その中で優劣つけたら宇宙人よりおばけのが怖いねんで」


今でも時々その話になっては、


「UFOやった」

「生首やった」


と闘うのだという。


勝敗は、いまだにつかない。