寝る前にした怪談話が蘇り、友人はゾクッとした。

怖くて目を開けられないでいると、声が移動しはじめた。

だが足音はない。

ゆっくりと扉から窓辺に向かってくる。


なんやこれ。
なんやこれ。


友人は必死で眠ったふりを続けた。

近づくにつれ、少しだけ言葉が聞きとれた。

だが意味がわからない。

言葉だということはわかる。

そうするうち、声が窓辺で消えた。

しばらく緊張したのち、友人は肩の力を抜いた。


もう大丈夫や…。


そう思った時。




「なんでなん」




と、右耳の真横で声がして、友人は絶叫した。


その絶叫でAさんたちは目が覚めた。

混乱状態の友人をなだめ、その夜は電気をつけたまま寝ずに過ごした。

翌朝、店のおじさんに夜の出来事のことを必死で語ると、おじさんは困ったようにため息をついてこう言った。



「やっぱり、お札要るなあ…あの部屋」



その体験が忘れられず、Aさんはいまだに旅館に泊まれない。