怪談

バックミラー

同僚のＮの話だ。


車で走っていると、前の車に乗っている子供がこちらを見ながらにこにこ笑っているのに気がついた。

無邪気なその姿にほほえましくなり、手をふってやる。

が、子供は反応しない。

ただにこにこ笑い続けている。

もう一度笑顔で手をふってやったが、子供の反応はやはりなかった。

そこで初めて、子供を不気味に思った。

あの子はなんであんなに笑っているのだろう。

一度不気味と思うとそれ以降は不気味にしか思えなくなった。

にこにこだと思っていた笑顔でさえ、にやにやに感じてくる。

前の車と離れたいと思った時だった。

前の車が、衝突事故を起こした。

前の前の車にぶつかったらしい。

車間距離をあまりとっていなかったＮは足止めを喰らうはめになった。

正直、苛ついた。

が、医療従事者として、なかなか出てこない前の車の運転手が心配にもなった。

仕方なく車を降りてドアを叩いた。


「大丈夫ですか」


覗きこむと、不思議なことに気付いた。

子供がいない。


「あれ？ちっちゃい子は？」


そう言うと、運転手がすがるような目でＮを見てきた。


運転していると、バックミラーに乗せた覚えもない子供が映ったという。

振り返ってみたが、誰もいない。

しかし、バックミラーを見ると、いる。

後部座席から後ろの車を覗くようにして、子供が座っている。

ずっとそうして、映っている。

何が起こっているのかわからず、怖い怖いと思いながら運転していたら、前方不注意で衝突してしまったのだと言った。




「いましたよね。子供、いましたよね」




繰り返しそう尋ねてくるその人に、その子供が不気味に笑っていたと、どうしても言えなかった。


それ以降Ｎは、見知らぬ子供が映るかもしれないという恐怖が脳裏からどうしても払拭できず、バックミラーを見ることが


怖い。