病院の夜というと、大抵の人は気味悪がる。

人の生死が一番身近な場所なので、すぐに心霊体験が連想されるかららしい。

しかし現実は、そういった期待に添うことなどほとんど無い。

しかし私の知る限り、大抵の看護師が体験していることがひとつある。

誰もいないベッドからのナースコールだ。

深夜、空床であるはずのベッドからナースコールが鳴る。

いくら誰もいないからといっても、看護師はナースコールが鳴れば行かなくてはならない。

行く。

誰もいない。

また鳴る。

行く。

誰もいない。

そうこうしているうち、ナースコールの故障かと訝しんで、しばらくベッドサイドで様子を見ることにする。

しばらくして、触れてもいないのにナースコールが

鳴る。


ここまでは、よくある話である。


Kという看護師の体験を話す。


ある時、Kは夜勤をしていた。

深夜3時をまわるころ、誰もいないベッドからナースコールが鳴った。

嫌な気分で懐中電灯を持ち、そこへ向かう。

ドアを開け、中を照らす。

誰もいない。

怖いので誰もいない部屋をいいことに電気をつけ、中に入った。

ぐるりと見回す。

誰もいない。

ホッとした瞬間、なにかおかしいと思った。

もう一度、注意深く部屋を見る。



息を、飲んだ。



設置してある床頭台と壁の15センチほどの空間に、老婆がいる。

老婆は灰色の髪と、くすんだ薄紫の服着て後を向いていた。

あんな隙間に人が入れるわけがない。

あれは生きている人間ではない。

Kは急いで電気を消し、部屋から走って逃げた。



老婆が振り向くのが怖かったからだという。



老婆の着ていた薄紫の服のスミレのような花柄まで覚えているから、あれは錯覚ではないとKは言う。


それ以降、

ナースコールは鳴らなかったそうだ。