「……それから?」


なかなか続きを話さないYに痺れをきらして急かすと、


「わからない」


と返ってきた。

大人が入って電気をつけた。

そこまでは覚えているが、その先を覚えていないのだという。

どんなに頑張っても、思い出せないのだと。

親にその時の事を聞いてみたことがあるが、そんな過去は知らないとの一点張りで話にならない。

その時一緒に行ってくれた大人が誰だったかも覚えていない。

しかし夢ではない。

その証拠に勝手に持ち出した父のスコップが、その時以来無くなっている。

だがその事実に関しても両親は相手にしてくれないのだという。


夢だったのか。

違うのか。


「今となってはわからん」


ただ、それ以降の事だという。



『はいはい』が怖い。



四つん這いでこちらに向かってくるものが怖くて怖くて仕方がない。


四足で歩くものは平気なのだという。

だから動物は平気なのだという。

しかし『はいはい』は怖い。

『四つん這い』は恐ろしい。

この『言葉』ですら怖いのだと、Yは鳥肌を見せながら言った。

多分自分はあの時怖いものを見たのだろう。

そして怖い思いをしたのだろう。

記憶を無くすほどに恐ろしい体験をしたのだろう。

そしてそれは『はいはい』が関与する何かなのだろう。

しかしそれが何かがわからない限り、自分はそれを克服する手立てがないのだ。

一生怯え続けなければならないのだ。


意味もわからず。

ひたすらに。


Yは淡々とそう語った。