内側から、まるでYをめがけるようにしてべたりと白い人間が貼りついた。

Yは心臓が止まるほど驚いたという。

勝手に入り込んでミミズを物色していた事を謝ろうとも思ったが、声が出なかった。

怖かったからだ。

すりガラスを媒体にして見える映像だからかもしれないが、その人間の顔容が不気味すぎた。


暗い。

眼窩が暗すぎる。


本来眼球があるべき部分にぽっかりと穴があいているような顔容の異様さに、Yは恐ろしくなり道具も忘れミミズも捨てて逃げ出した。

走った。

ひたすら走り釣り竿を投げ入れている場所まで逃げた。

しばらくそこでさっき味わった恐怖に震えていた。

しばらくそうしていた。

晴天というのは力があるものだ。

虫も焦げそうな日光の光に浄化されるかの如く体温と気持ちを温めてもらった。

平常心を取り戻したYは、ふと稚拙な妄想にとりつかれた。

もしかしたらあの人は閉じ込められているのかもしれない。

あんな暗い場所にいるのだ。

そうに違いない。

自分に助けを求めていたのかもしれない。

そうに違いない。

子供らしい正義感を片手に奮い立ったYは、近所の知りあいの大人を訪ね『知らない家の窓を割ってしまった。謝りたいから話をつけてほしい』と巧みに嘘をついて平屋に向かった。

大人とともに平屋を叩いた。

返答がない。

何度も叩いた。

返答がない。

留守のようだと思った。

とりあえず引き戸を引いてみた。

開いた。

留守でも鍵をかけない。

反応がなければ扉を開けて声をかける。

昔の田舎なら珍しくもなんともない。

それでも反応が無かった場合退散するのだ。

それが田舎の普通だった。

反応はなかった。

あとは退散するだけだった。

しかし、Yと大人は扉を開けた一瞬にして異様なものを感じ取った。



臭いのだ。



なんの匂いと言われてもわからないが、臭い。

ひどく、臭い。

しかも、尋常でない類の匂いだ。

中に何があり、どうしてこんなにおいをふりまいているのか。

暗い部屋ではよくわからず、埒があかないと思った大人は


「ちょっと失礼しますよ」


と中に入って


電気を



つけた。