梅雨が終わるか終わらないかの初夏の日の事だという。

まだ風は涼しいにも関わらず見事な晴天で、温度が上がれば蝉の声が聞こえそうなほど明るい昼下がり、幼いYは近所の川に釣りに来ていた。

そこの川は絶妙な淡水で、良い鰻が釣れるのだという。

丑の日に祖父に蒲焼を食わせたいと意気込んでいたYは、しこたま仕掛けを投げ込んだ。

しかし鰻も心得たもので、餌は食われても針にはかからない。

あっという間に用意していた餌のミミズが尽きた。

そこで諦めるのも癪なYは、どこぞの暗い湿地から餌を探して補充しようと考えた。

そこらをうろうろとし、ある古い平屋の影になった西側に潜り込んだ。

腰を据え、時間を忘れて餌採りに集中する。

父の畑道具から勝手に持ち出したスコップは性能がよく使うのが楽しかった。

昔は近所の子供が敷地内に入り勝手に庭先を掘り起こそうと騒いだりしなかったものだ。

苔のたむろう柔らかい土を掘り起こすと闇を好む虫がわんさかとでてくる。

Yは夢中になってミミズをとった。

あらかた採って立ちあがった時ふと、その家の窓に疑問を持った。

西側の塀に窓があるのが珍しい事など幼いYにはわからない。

それでもその窓は異様に映った。

位置が低すぎるのだ。

設置してある位置があまりにも低い。

和室に設けられる地窓とは明らかに違う大きさのその窓は、Yの膝下あたりを底辺にしてそこに在った。

窓に向かう部分には別の家の壁がある。

その隙間は幼いYひとりが座ってぎりぎりという狭さだ。

換気目的の窓ではない事くらい、すぐに知れた。

なんでこんなに窓が低いんやろう。

すりガラスを使用しているため中はわからないがひどく暗い。

その暗さが想像力に拍車をかけた。

まるでお宝がすぐそこにあるように思ったのだという。

Yは無邪気な好奇心からしばらくその窓を覗き続けた。

その時だ。



その窓に人が貼りついた。