「看護婦さん、電気消さんといて」


ある部屋に入室した患者さんが強烈に消灯を嫌がった。


「でも明るいと寝にくいでしょう」


患者さんは首を振る。


「お願いやから消さんといて」

「音がするねん。足音みたいな音がするねん」

「素足で走り回るみたいな音がするねん。でも人間の足音と絶対にちがう」


入院による環境変化で、稀にこういう精神症状が出る人がある。

根気強く宥め説得して、何かあったらすぐ駆けつけると約束し、私は消灯をした。


深夜12時になった頃、ナースコールが鳴った。


「看護婦さん!看護婦さん!!」

「どうされましたか?」



「たすけて!!」



懐中電灯を掴んで、走った。



部屋のドアを開け、懐中電灯をつけて中を照らす。

不気味なものが照らし出された。


それは確かに足だった。


闇の中、懐中電灯の光に照らされて足元だけが見える。

トイレットロールくらいの細さの、素足が。

こんなに細いのに痩せているとは思わない。



乳児の足だ。