―――簪が、欲しかった。

いつも身につけられるそれが欲しかった。

彼が選んだものを身につける。

彼が買い与えてくれたものを身につける。

それは、私が彼のものであるという証のような気がしたから。

たとえそれが真実でなくとも、私はそれに酔ってみたかった。

だから、簪が、欲しかった。

いつも身につけられるそれが。

でもそれは許されなかった。

叶えられなかった。

なぜなら彼は、私など要らないからだ。

彼のものになりたい。

彼のものでありたい。

彼に必要とされたい。

でもそれは私には許されない。

絶対に。


なぜなら私は『贄』だから。


胸が痛くてたまらない。

苦しくてしかたない。


私は『贄』。


笑うな。

喜ぶな。

楽しむな。

――――生きるな。


私に許されたものは限りなく少なく、私に求められるものは静寂と『死』。

この痛みは、なによりも下賤なこの身で過ぎた望みを持った罰なのだろうか。


彼のものになりたかった。

彼のものでありたかった。

彼に必要とされたかった。

でもそれは私には許されない。

絶対に。

彼は

私など
要らないからだ。


冷たい背中を見つめながら私は涙を堪える。


―――あなたに何度も恋をしている。

瞬きするたびに堕とされている。

私だけ。

私、だけが囚われている。

こんなにも深く。


私が忌まれ子でなく、この街を闊歩できる自由で美しい人間であったなら、一夜だけでもあなたに愛されたのだろうか。

一度だけでもあなたに抱かれることができたのだろうか。

そんな愚かなことを……考えている。

あなたの運命の先に私がいない事。

それがこんなに辛い。