きっぱり言われた台詞に言葉を失う。


『形だけとはいえ契約。正室の座、くれてやる。だがお前を『妻』にすることはない』

女としての私を全力で否定してから、桂乃皇子は目を細めた。


『俺がお前に望むことはひとつだ』


そこではじめて
彼は笑った。

優しく
優しく

非道なほどに

優しく。


そうして笑いながら耳に口を寄せ、そっと告げる。


『いつか俺の矢盾となり、死ね』


体中の力が、無くなっていくようだった。

絶望というのはこういうことなのだと、知る。

彼は私を望んだのではなかった。

彼は私を選んだのではなかった。


私は『妻』に望まれていたわけではなかった。

契約の『駒』でもなかった。

国に対しての『人質』でもなかった。

性を吐きだす『慰み者』でもなかった。

いつか彼に向かってくる矢や刃を彼の代わりにうけ、犬死にをするためにここに呼ばれたのだ。


私が射られる、斬られるその隙に彼は、助かる方法を編み出すのだろう。

応戦することを心決めても私ごと斬る。

逃げるにしても私の事など考えもしない。

私はそう言われたのだ。


望まれたのだと
思った。

この男に。

この人に。


初めて、生まれて初めて誰かに望まれたのだと思った。

そう
思ったのに。



「誓いの盃を」



死ね、と言ったその声がそう言った。

妻となることを
誓う盃。

夫に従う事を
誓う盃。

死ねと、もう一度言われた気がした。