俺に迷惑をかけられないと思っているらしかった。

姫は何も望まず俺は何もできていないのに、姫はそんな俺に過分なまでの何かを与えられているという顔をしていた。

これが、何も与えられてこなかった女の顔だという事が、辛い。

頑なに提案を拒絶する姫に、俺は小さく息を吐いた。

どうすれば妥協するのだろう。

孤独を背負い、それに慣れすぎた者の扱いがわからない。


「買い出しのついでなので構わないのですよ」


嘘だった。


俺の役目上、火薬や鉄などの消費は出るがそれらは同胞から得る。

街で扱う代物ではない。

街に用向きなど、俺自身には全くなかった。

しかしそう嘘をつかねば姫は遠慮をし続けると思った。

だが聡明なこの姫はそれが嘘だと悟ったようだ。

自分のせいで瑣末な嘘をつかせていると苦い思いを噛み、目を曇らせる姿が哀れで胸が痛い。

俺の嘘が稚拙すぎた。


「買い出しという事に疑問がおありのようですね。私が嘘をついていると思ってらっしゃいますか」


薄い嘘の濃度を上げるために、濃い嘘を注ぐ。

素直に頷く姫に俺はまた小さく息を吐いた。

呆れた、と、見せるために。

このため息は姫にしみるだろう。

しかし嘘を真実と思わせるためには仕方ない。

俺は続けた。


「この屋敷は町はずれ。油売りどころか薪売りも来ません。それを得るには街に行くよりないでしょう」


油売りも薪売りも来ないのは事実だったが、それを得るには街に行かねばならないと匂わせたのは嘘だった。

薪も油も、食事を運ぶ使いが置いて行く。

しかし、姫はその俺の言葉を信じたようだ。

桂乃皇子は、確かに姫をおざなりにしている。

しかし最低限度よりも一歩上の扱いは心がけている。

それが、桂乃皇子は姫を、心のどこかで気にかけている証のようで、俺は少し不愉快だった。

毎日消費される薪と油を用意しているのが俺だと思った姫は、唇の色を失った。

自分の知らないところで俺に迷惑をかけていると思ったのだろう。

こんな事、迷惑でも手間でもなんでもないのに、姫はそれがわからない。


姫の抱える闇は、
孤独の長さは、

簡単には掴みきれない。


目の前にいるのにその存在を酷く遠いものに感じて、俺はまたため息をついた。


どう、したい?

どうすれば、いい?

どうすればあなたは笑うんだろう。


ふと、思いつき、心のままにこう言ってみた。


「…一緒に、行きますか?」