私は『西の国の正室』。

彼はその監視を任された
『忍』。

過度の信頼と依存は重荷以外の何物でもない。

…彼に、嫌われたくない。

疎まれたくない。

離れられたく……、ない。


だから削った。

言いたい事を極限まで削った。


「…霧夜様のことは、なんとお呼びすれば?」


その一言で、彼は『夫婦』の案を私が受け入れたことを悟ってくれたのだろう。

ほっとした顔になる。

駄々をこねて、困らせたくない。

そんなことで構ってもらっても仕方ない。

そんな資格は私にない。

それを、その事実を、心に切りつけるよう刷り込んだ。


「霧夜と」


そう答えてから彼は小さく笑う。


「…というより、常日頃の呼び方も『霧夜』と。私に『様』は要りません」

「でも…」


私はそれには納得できず、顔を上げる。


「霧夜様は私の鍛練を指導する身。つまりは『師』です。そうお呼びするのは妥当かと存じます」

「ですが私は姫にお仕えする身」

「けれど…」

「…姫」


埒のあかない会話になりつつあったものを、彼は早々に切り上げて息を吐く。

そして宥めるように微笑んだ。


「少しずつ、変わっていきましょう。あなたも、私も」


ーーーー―共に。


言外に伝えられた言葉に、胸が締め付けられる。

埒のあかないやりとりを放りださなかった。

突き放さなかった。
私を。

頑なな、こんな面倒な女を。

変わっていこうと言ってくれた。
共に、と。

それがどんなに光り輝く言葉かこの人は知らないのだろう。

いつも独りだった私に関係のなかった概念。


『共に』。


…胸が熱くて

倒れそうだった。