「…このような有り様で申し訳ありませんが、安全確認を失礼しました」


すべて少しずつ削られ確認された食事が目前に戻される。


「…私などが手をつけたあとのものを食せというのは心苦しいのですが…」


本当に苦しそうにそう言う姿に、鈍く喉が締められた。

少し深めの辞儀をして箸をとる。


「…お手数をおかけします」


…私に毒など、盛られはしないのですよ。

…私は毒を使う価値などないのですよ。


そう言って責務から解放してあげたかった。

けれどそれは先刻の彼の親切を滑稽に変えてしまう事になるので黙った。

生まれてはじめて受ける『心遣い』に申し訳なくて、心臓が痛む。

安全とされた食事を口に運ぼうとすると、彼が少し息を詰めた。


「…待…っ」


飲みこまれた台詞の意味がわからず見つめ返すと視線を逸らされる。

私はまた何か自覚のないことをしてしまったのだろうか。

心当たりが全くなかったので一旦箸を置き言葉の続きを待ったか何も返ってはこなかった。

気付かぬ事をわざわざ改めて聞くのも甘えのような気がして私は食事に戻る。

彼は黙ったままそっと私の食べる様子を横目で見ていた。

毒見をしたとはいえ部分的な危険性の懸念が拭いきれないのだろう。

見張る為ではなく、守る為に傍にいるこの人に、私は少し畏怖を感じた。

しばらくそうして食事をしていたが、次第に息が詰まってきた。

食欲の問題ではなく、経験のない状況に緊張した為だ。

箸を持つ手の指先が冷え、動きがぎこちなくなる。

私の戸惑いに気付いたように彼は目を伏せ、硬い声でこう言った。


「…私ごときが傍にいると食事の味が落ちましょうが、ご容赦ください」


見当違いの謝罪に、苦笑がもれた。


何度も伝えたのに。

あなたは下賤ではないと。

真に下賤なのは、私であると。


彼は私を『下賤』な物だとどうしても理解できないらしい。


それが
痛かった。