私が食事を受け取ると、そう命じられているためか、私が嫌でしかたないためか、彼らは早々に返って行った。

食器は夕の運搬時に回収するということなのだろう。

部屋に食事を運び、座る。

そっと手を合わせ、蓋をとった。

食欲などなかった。

全くといっていいほど。

しかし、世の中には食べる事もままならぬ人々がいる。

そんな世界の中、私の弱い精神を理由に食事をとらないのはすべてへの冒涜に思えた。

箸を持つ。


…食べなければ。


義務であるようにそう自分に言い聞かせた。

でないと、失礼ではないか。

食べる事に窮し死にゆく者たちがいる。

食べる事だけを重視し生きる者たちがいる。

忍もまたそうして道を選んだ者。

食べ物を残すというのはそういう者たちを嘲る行為だ。

許されない。

してはいけない。

せめて、私に死に方を享受すると受けてくれた彼に無礼なことだけはしたくない。

そう思い、小さくした野菜を口にいれて噛み、飲みこんだ。


「……っ」


極度の食欲不振と咀嚼力の減退により、嚥下もうまくできなかったようで少し咽せる。

たいして口に入れたわけではなかったので大事には至らないが、くすんだ部屋でひとり食事に咽る自分のみっともなさを思った。


…見苦しい女だ。
…本当に。


自分に対しそう思う。

何度か咳をし、茶で喉をととのえようとした。

その時だった。


「何があった!?」


凄まじい形相で彼が部屋に飛び込んできた。