「お目覚めください」

突然布団を持ち上げられ、畳に放り出された姫はさすがに驚いたらしく呆然としていた。

今まで見た中で一番感情豊かなその表情が愛しくて、俺の心は熱くなる。

何が起こったのかわからぬまま俺を見上げるその瞳に微笑んでみせながら俺は言う。


「鍛練をなさるのでしょう?」


姫の表情が一瞬凍りつき、そして曇る。

その理由を払拭するように俺は動きやすい衣服を渡した。


「報酬として薬草採取を手伝っていただきます」


変換された報酬について聞き返されないよう、俺は音高く障子を開け放った。


「よろしいですか?」


姫はしばらく黙って俺を見つめていた。

どう身をふるか考えているようだった。

しかし俺のこの行動を『優しさ』または『憐れみ』と勘違いしたようで、淡く、そして悲しげに微笑み、頷いた。


「よろしくお願いいたします」


掠れるようなその声に、胸が焼かれた。

…とって、くれた。

手を。

安堵にくずれおちそうになる。

こんなことをしても、どんなに微笑んでも、もう手をとってはくれないと思っていた。

どこかでそう、思っていた。

けれど姫は、手をとった。

とって、くれた。

俺に譲歩をしてくれた。

それが、そのことが、こんなにも胸に響く。

それだけ。

たったそれだけのことに、胸がはりさけそうになった。

外は、昨日と同じく雪が降っていた。

舞う白にくらむ。

恋を
した。

引き返せぬ
…恋を。