望まれたのだと思った。

この男に。

この人に。


初めて、生まれて初めて誰かに望まれたのだと思った。

そう、思ったのに。


私は東の国の統治者の家に生まれた。

緑に恵まれた豊かな国だった。

豊かな国。
豊かな国風。

私は何不自由ない世界に生まれた筈だった。

けれど、そうではなかった。

私は生まれる際、占によってこう告げられた命だった。


『この娘はいつかこの国を滅ぼす』と。

その不吉な予言を
父と母は信じた。

国民も。

すべて。

私は誰にも愛されなかった。


父と母は天真爛漫な姉を一心に愛した。

国民は天真爛漫な姉を一心に愛した。

父と母と人々は姉を『陽の姫』と呼んだ。

私の事は『あれ』と呼んだ。

それでも姉を妬んだことは一度もなかった。

姉には姉の良い所が私には私の良い所がきっとあるはずで、

姉は姉私は私なのだから、姉を羨み妬んでもどうしようもない事などわかっていたから。


だから私は私のできることを探した。

琴も歌も舞いも茶も香も作法もすべて努力した。

それでも足りないならばと料理や裁縫といった雑務もこなした。

それでも足りないならばと乗馬や弓や剣や槍も覚えた。

笑顔を忘れず、語りかける事触れ合うことを諦めなかった。

しかし、誰も私を愛しはしなかった。

そればかりか、その私の行動はひどく疎まれた。

琴をうまく奏でる度、歌を詠む度、舞いを舞う度、茶をたてる度、香を合わせる度、厭われた。

『陽の姫へのあてつけだ』と。

姉がなにを失敗しても笑っている人々は、私の成功を貶めた。


そして料理や裁縫をするたび嗤われた。


『なんと下女の勤めがお似合いな』と。


乗馬や弓や剣や槍をするたび距離を置かれた。


『男の真似ごとなど醜悪な』と。


そして父と母は、人々は、口をそろえてこう言った。


『早く死んでくれぬものか』と。


そんな中で17年の月日を過ごしてきた。