…なぜだ。

呆然とそう思った。

…なぜだ。

…なぜ、姫はこんなことを言わねばならぬのだ。

この姫にこんな悲しい事を言わせしめるものはなんだ。

この姫にこんな切ない事を言わせしめるものはなんだ。

そして痛むこの、胸は。

なんだ。

ずきりずきりと鋭い刃物で削がれるような心臓を胸で押さえながら

俺は自分を探った。

俺はこの姫を憐れんでいるのか?

可哀そうだと、痛ましいと、哀れんでいるのか?


そうかもしれないと
思った。

それも事実だと思った。

けれどこんなに胸が痛むのはそのせいではなかった。

姫ははじめから俺を『ひと』として見ていた。

『ひと』として敬意をはらい、敬語で語り、頭を下げ、目線を合わせてきた。

公平で、純粋で、美しい娘。

そう。

美しいと思ったのだ。

『美しい』と。

そんな姫を欲しいと思った。

欲しいと
思ったのだ。


一目見たときから。


この
姫を。

けれどこの姫は絶望的に傷ついていて、心から笑いはしなかった。

心から怒りもしなかった。

なにも望みはしなかった。

俺すらも。

あえて死ぬために願った事さえ自分を愛さない夫のため。

俺に抱かれないのも自分を下賤だと思っているせい。

そんな孤独が
存在するのだ。

この世に。

世界に。

目の
前に。