「死んではいけません。死んではならないのです。私以外は」


ずきり、と胸が痛んだ。

『心』だ。

『死んではならないのです。私以外は』

この台詞に俺は今、心を痛めたのだ。

忍として生きていくにあたり捨てたものに、心もあったはずだ。

なのに確かに痛んだ。

今痛んだのは『心』だ。

なぜあるのだ。

心が。

それに焦った。

立ちあがった姫に戸惑い俺は息を詰める。

それを悟ったように姫は少し歩を止めた。


「姫」


『…私は姫ではない』


その顔は自嘲に満ちていた。

そう呼ばれることに滑稽を覚えているようだった。


「くだらぬ願いで困らせたことひらにご容赦ください」


そっとそう告げ、もう一度頭を下げられる。


「下賤なのは私です。体を合わせれば穢れるのはあなたです」


そんな絶望的な言葉を吐いたのち、姫は微笑む。

その笑顔の美しさと悲しさに、息を飲んだ。


「ご自分を大切になさってください」