きっぱりとした提案の拒絶に再度驚愕し、そして苦いものが胸を染めた。

忍相手に礼節をふまえる女。

頭を下げる女。

それに俺は少し感心してなんらかの好意的なものを抱きつつあった。

しかし提案は棄却された。

それはつまりこういう事だ。

下賤なものに抱かれるのは我慢ならぬ。


所詮この女も卑しく生ぬるい『人間』のひとり。

偽善的なさっきまでの態度を皮肉ってやろうと、唇を歪めて
わらってみせた。


「下賤なものに抱かれるのは嫌ですか」


女はその言葉に動揺するでもなく、ただそっと瞬きをしただけだった。

そして言い淀むでもなく、卑屈に嗤うでもなく、まるでそれが純然たる事実のようにこう言った。


「下賤なのは私です」


まるでそれは、誰もがそう思っているとでもいうようだった。

誰も言わないだけだとでもいうようだった。

だからあえて口にしてみせたとでもいうようだった。

俺は微笑み続けることができなかった。


「私は『姫』ではありません。『西の国の正室』でもありません。『人質』でもありません。『玩具』にもなれません。『道具』にも足りません」


淡々とそう言い、女はそうしてわらった。

『熱』のない顔で

わらった。


「私は『贄』です」


『ニエ』。

容赦のない犠牲のその言葉を自分にあてはめ、平然としているこの女から、女の生きて来た過去が流れてくるようだった。