「言われなくてもわかっています。私は『贄』です」


そして知っている。

あなたは私の『警護』を命じられたのではないことを。


「なによりも下賤なのは私です」


あなたが命じられたのは私の『警護』ではない。

あなたが命じられたのは私の『監視』。

でもあなたは形だけでも跪き、警護と偽り私に礼を尽くしてくれた。

こんな私に。

それが私には嬉しかった。


だからこそあなたの提案は受け入れられない。


「しかし肩書きだけは『西の国の正室』。それに手をつけたと知れてはあなたの命に関わりましょう」


人々にとって忍は『人に非ず』。

虫を殺すほどの呵責もなく忍は消される。

瑣末な事でも。

生まれて初めて損得なく私に礼を見せてくれたあなたに死んでほしくない。


「死んではいけません。死んではならないのです。私以外は」


私は立ちあがった。

きびつをかえし部屋を出ようとする。

これ以上話は必要ないと思った。


目の端で彼が戸惑ったように息を詰めたのがわかり、少し歩を止める。


「姫」


私は
姫ではない。

そう呼ばれることが滑稽に思えた。


「くだらぬ願いで困らせたことひらにご容赦ください」


そっとそう告げもう一度頭を下げる。


「下賤なのは私です。体を合わせれば穢れるのはあなたです」


私はなんとか微笑んでみせる。

そんな私に彼は息を飲んだようだった。