やはり、と思う。

彼が『忍』という立場で『姫』を穢したかったことを肯定されたような気がした。

そして虚しくなった。

彼ほどに美しく洗練された者が忍として生きる世という歪みを。

そんな彼が私程度の女に男をちらつかせ腹いせを目論まなければならなかった社会も。

彼に比べれば私の境遇などとるに足らない悲劇なのかもしれない。

しかし私は弱く醜く、彼のように生きることはできなかった。

『生きる』ということに目を向けることができなかった。

私が今息をする理由はいつか死ぬため。

ただ
それだけ。

そんな不愉快な自分が彼の前でこうして座っているばかりかずうずうしくも願い事を言ったことを恥ずべき行為だと自覚した。


「下賤なのは私です」


誰もがそう思いながら誰も言わないその事実を私は口にしてみせた。

彼の顔から微笑が消える。


「私は『姫』ではありません。『西の国の正室』でもありません。『人質』でもありません。『玩具』にもなれません。『道具』にも足りません」


どういう顔をすればいいかわからなかったので

わらった。


「私は『贄』です」


彼の目が少しだけ驚愕したように見開かれた。

私がそれを知っていることに驚いたのだと思った。

そう。

彼の望むとおりもっと天真爛漫で愚鈍で甘い姫であればよかった。

姉のような。

でも私はそれを許されなかった。

それに恵まれなかった。

それが今一人の忍の八つ当たりさえ叶えてあげられない結果に繋がっている。

それが
虚しかった。