彼が憎んでいるのは『人間』という者。
私という個人ではない。
それは初めて向けられたといっていい嫌悪だった。
私は常に忌まれ蔑まれ嫌われてきた。
『私』だから。
だが彼は、霧夜というこの忍は『私』だから傷つけたいわけではなく『のうのうと生きる姫君』だから傷つけたいと思っている。
それはなんと罪のない優しい憤りなのだろうと思った。
けれどその提案を受け入れることはできない。
それはできない。
もし彼の思うように私が『姫』であったなら彼の望み通り穢され彼の傷をなぐさめられたろう。
もし彼の思うように私が『西の国の正室』であったなら彼に穢され彼の自尊心を満たしたろう。
だが私は、そのどちらでもない。
私は頭を下げた。
深く。
床に付く程に。
ふと、今夜の盃を思いだした。
胸は痛まなかった。
膝をつき、手をつき、顔をつき、盃を舐めたあの瞬間、私は自分が『人』ではないと思い知った。
目の前の彼はそんな私の事を知らず私を『人』だと思っている。
それが、彼を騙しているようで申し訳なくなった。
「…な…」
私が礼をした事に彼は驚いたようだった。
「なぜ忍に頭を下げられます」
「その提案、お受けできません」
彼の疑問の意味がわからなかったので、失礼ながら自分の事を優先させてもらった。
提案を断られた彼は
以外そうに目を細める。
そしてしばらく私を見つめたあと、ひどく不愉快そうな顔で笑った。
「下賤なものに抱かれるのは嫌ですか」
私という個人ではない。
それは初めて向けられたといっていい嫌悪だった。
私は常に忌まれ蔑まれ嫌われてきた。
『私』だから。
だが彼は、霧夜というこの忍は『私』だから傷つけたいわけではなく『のうのうと生きる姫君』だから傷つけたいと思っている。
それはなんと罪のない優しい憤りなのだろうと思った。
けれどその提案を受け入れることはできない。
それはできない。
もし彼の思うように私が『姫』であったなら彼の望み通り穢され彼の傷をなぐさめられたろう。
もし彼の思うように私が『西の国の正室』であったなら彼に穢され彼の自尊心を満たしたろう。
だが私は、そのどちらでもない。
私は頭を下げた。
深く。
床に付く程に。
ふと、今夜の盃を思いだした。
胸は痛まなかった。
膝をつき、手をつき、顔をつき、盃を舐めたあの瞬間、私は自分が『人』ではないと思い知った。
目の前の彼はそんな私の事を知らず私を『人』だと思っている。
それが、彼を騙しているようで申し訳なくなった。
「…な…」
私が礼をした事に彼は驚いたようだった。
「なぜ忍に頭を下げられます」
「その提案、お受けできません」
彼の疑問の意味がわからなかったので、失礼ながら自分の事を優先させてもらった。
提案を断られた彼は
以外そうに目を細める。
そしてしばらく私を見つめたあと、ひどく不愉快そうな顔で笑った。
「下賤なものに抱かれるのは嫌ですか」