添えられた敬称に戸惑う。


……様、と呼んだか。

俺を。

わけがわからなかった。


この姫は俺が忍だとわかっている筈だ。

忍とは人に非ず。

最も下賤であり身分の低い虫けら。

そんなことは誰だって知っている定義のはずだった。

そんな者に一国の姫が膝と手をつき敬称で呼びかけることなど在る筈がない。

不気味な状況に顔を上げると、蝋人形のような顔が俺を見つめていた。

…やはり思う。

『熱』がない。


「私に戦い方を教えてくださいませんか」


淀みない敬語が俺にそう頼んできた。


「…戦い方?」


俺を忍とわかっての依頼とは理解した。

敵国の姫。

戦闘伝授の依頼。

この女、静かな顔をして桂乃皇子の寝首をかくつもりか。

どう返したものかと思案していると、女はゆっくりと目を閉じた。

『見る』という事に疲れた、そんな目の閉じ方だった。


「正確には…死に方を、です」


尚更意味がわからず黙ることで話を促すと、女はぼんやりと目を開けて床を見つめた。


「死ねと言われました」


ぽつりとそれはこぼれ出た。


「『いつか俺の矢盾となり、死ね』と」


その言葉の出所は女の夫でありこの国に長である桂乃皇子であるということは容易に想像がついた。

身一つで敵国に来た妙齢の女に対し徹底した侮蔑と敵意に不愉快なものを覚える。