本気で自分の覚醒を疑う。

これからも外に出る事。

何度も外に行き触れ合う事。

桜の花が開くまで見守る事。

桜の満開を見る事。

それらすべてを彼とともに過ごす事。

そんな我儘がすべて認められるなんて、現実なわけがない。

けれど


「…いいんですか?」


自分から出た声の震えが、これは現実なのだと知らしめる。

夢ではないのだと滲んでくる。


「行きますか?」


再び繰り返されたその言葉に


「…いいんですか?」


更にそう聞き返すと、

彼は笑った。


「俺は『行くか?』と聞いたんです」


―――春よ、来い。


泣きそうになって慌てて桜のほうに顔を向け、私は震えを隠すように微笑んだ。

喉が締め付けられ、胸が張り裂けそうになり、耳が熱を持つ。


―――春よ、来い。


私が外出を二度とねだらないであろう事を彼はきっと知っていた。

しかしそれを望んでいる事はきっとばれていた。

私が桜を見たいと思っている事をきっと彼は見抜いた。

しかしそれを願わない事もきっとわかっていた。

だから彼は彼らしくいつものように私の心の負担を最小限にする『言い訳』を用意して、約束をとりつけてくれたのだ。

私にすべてを与えるために。

優しい人だから。

優しく温かい人だから。


「…行きたいです」


やっとの事で頷くと優しい微笑みが返ってくる。

それに眩み、息を吐けば恋情があふれそうだったので呼吸を止めた。

嗚呼、嬉しい。

嬉しい、嬉しい



……悲しい。



――――春よ、来い。


彼は、『春』。

私の、『春』。


―――春よ、来い。


簡潔明瞭なこの祈りの言葉は、まるで冬からの愛の告白のようだ。

決して叶わない思い。

だからこそそれは、永遠に告げられ続ける。

永遠に乞われ続ける。


春よ、来い。

春よ、来い。


…愛しています。

と。


でも彼は時折その温もりで境界を侵してくる。