桂乃皇子が東の国の姫を正室に迎えるという情報は聞いていた。

武力強化のための政略婚。

しかも一時的な。

だがその策は最も賢明に思えた。

現在この国は昨年の飢饉により様々なものが不足している。

食料も人も忠誠心も。

そんな中、意地というくだらないものだけを貫き見栄を守り続けていると国は傾く。

急成長し武力の優れる北の国が隙あらば他国を飲みこもうと狙っているのは周知の事実だった。

そんな国との対等な国交など不可能に近い。

対等に契約を結ぶなら、この国と同じく昨年の飢饉で弱っている東の国しかない。

小国といえど国は国。

ふたつが組めばそれなりの脅威として存在を得ることができる。

西の国の皇子は妙齢であり妻を持たず、あつらえたように東の国に妙齢の姫がいることも後押しになり、長年諍いを続けて来たふたつの国は短期間の平和条約を結んだ。

だがこれはあくまでも契約。

一時の戯れ。

妻という名の人質に対する待遇など想像するまでもなかった。


正室とは名ばかりの人質は城に住まう事も許されず山奥深い屋敷を与えられる。


俺がそこの監視を任命されたのは、祝言が行われたその日の夜だった。


監視ですか。
承知。

して、何時から。

そう尋ねると桂乃皇子は笑った。


今夜から。


…今夜?