店の内装のこだわりとか、酒の配列とか、グラスとか、氷とか、もちろんカクテルの味とかからわかることがある。

この人は、本当にカクテルが好きなんだ。

お酒、ではなく、カクテルが好きなんだと思う。

私もそうだ。

お酒、ではなく、カクテルが好きだ。

酒が禁じられた歴史の上で、ジュースに見せかけて飲まれはじめたのがカクテルだ。
それは『政府の目を騙すためだけ』のものから『より美味しく楽しむ』ものへ変化した。
だからカクテルは、ひとつひとつの種類すべてに生まれた経緯と意味をもつ。

そんなアルコールはカクテルだけだと思う。

それに、たとえそんな背景がなくても、惹かれずにいられない。

この、宝石のような液体に。

それが纏うに相応しい場に。

そんな、大切なこだわりの空間を、目の前のこの人はさっきまで壊され続けたのだ。

機嫌がいい、
わけがない。


「よく来てくださってますよね」


穏やかに話しかけられ、びっくりする。


「カクテル、好きなんで…」


微笑んでいいものかどうか迷い、曖昧な顔で答えると男性と目が合った。

う、驚くほど美形だ。


「そういえば、マイナーなのをよくリクエストされますね。アルカディアとかマザーズタッチとか」

「お手数おかけします」

「いえ、仕事ですから」


笑顔ではあるが、今キッパリ線を引かれたのがわかった。