クールな印象な黒髪のメガネ君だけが、無表情で私達3人を観察。
コレは…………ナンパ?
うん、とっても立派な“ナンパ”だわ。
……3……2……1
再び私の顔面から、色が無くなって行く。
「ごめんね美名待たせて!車来たよ!!」
やっと李子がこっちに走って来たが、今の私には聞こえない。
体中がカタカタ震え、笑顔が引きつる。
「美名……?ねぇ、この人達、誰?知り合い?」
状況を理解出来ていない李子は、男の子3人を示して尋ねるけど――――
「やっぱり男なんか、大っ嫌ぁぁぁぁいっ!!」
大絶叫して、私は一目散に走り出す。
「ええ!?ちょっと美名!?アンタ荷物………っ」
李子の驚きまくりの声が聞こえたけど、振り返る余裕は無い。
「ごめん李子っ!後で私の家に届けてーーーー!!」
それだけ言い残し、道行く買い物客を上手くすり抜け、デカイ我が家までひたすら走った。
玄関に駆け込み、一旦息を整える。
「あ、美名お嬢様、お帰りなさいませ。李子様とのお買い物、いかがでした?」
谷内がのほほんと私に尋ねて来る。
「…………最っ悪!!」
私が不機嫌バリバリに答えたので、谷内は目を丸くした。
「お、お嬢様……?どうなさいました?」
「谷内、後で李子が私の荷物持って来てくれるから、受け取っといて!」
運転手の谷内に執事にする様な命令をして、自分の部屋に直行する。
最初に目に入ったお気に入りのお姫様ベッドの枕を、力の限り投げつけた。
さっきのイケメントリオの映像が、頭を過る。
ちょっとでもいい人だなんて思った私が、バカだったわっ!
「共学なんて、共学なんて、無くなっちまえ~~~~!!」
屋敷中に、私の汚い言葉使いの大声が轟いた。
“共学でも頑張る”なんて、やっぱり…ムリィィィィ!!
「………美名、大丈夫?」
「大丈夫……じゃない」
「やさぐれてるねぇ………」
李子が困った様な笑顔をしながら、前を向いた。
美しい青空が、私達の上に広がっている。
でも私のひっくーーーい気分を盛り上げる事は、空には出来なかった。
「遂に凛兎も共学になっちゃったわねぇ――――…」
感慨深げに言う李子。
私はため息をつきながら、両手で顔を覆った。
とうとう来てしまった………凛兎学園と時色学園の共学・新校舎お披露目式典の日。
何度この日が来ない事を祈った事か!
「もう嫌ぁ…………」
子供みたいにぐずる私の背中に、李子の手が当てられた。
中1の頃から私が混乱していると、李子はこうしてくれる。
すると不安やら何やらが、スゥーーーッと泡みたいに消えて行くの。
マジック・ハンドだわ……李子さん。
「でも良かったの?李子。式典サボっちゃって」
「いいのよ。堅苦しい式典、苦手だしね私」
私と李子は今、式典が行われている元・凛兎学園グラウンドにはいない。
昨日から元気が無い私を見かねた李子が、ムリしないでって一緒に抜け出してくれたの。
で、学園の近くの公園に逃げて来た……というワケ。
お嬢様なのに何やってんだって言われそうだけど、お金持ち=優等生なんて決まりは無いでしょう?
たまにはこういう事もあるのよ。
「美名にはあのグラウンドは地獄だろうね」
李子の言う通り、凛兎学園……今日から“凛色学園”のものになったグラウンドは、半分時色生で埋め尽くされた。
普段同性ばかりに囲まれてる凛兎の友達は、やって来た時色の男子生徒に興奮しちゃって………
「キャーーー!あの男の子、カッコイイ!」
「私はあっちの男の子の方が好みかも!!」
「コラ皆さん!はしたないマネは、およしなさいっ!!」
先生に注意される皆にバレない様に、コソコソとドロボーみたいに脱出するのに苦労したな。
李子と並んで座ってたベンチから、よっと立ち上がる。
「今頃凛兎の皆と時色の生徒、何やってるのかしらね……」
男の子並みに低い声で呟いた。
「新校舎の中歩き回ってるんじゃない?私達も明日見る事になるでしょ」
「私は出来れば一生見たくなかったよ」
地面に転がってた石ころを、チョンと蹴る。
黒い石がコンコンと音をたててバウンドした。
座っていた李子も、スカートを叩きながら腰を上げた。
「美名、まだ気にしてるの?」
1回で複雑そうな李子が何の事を言いたいのか、ピーンと来た。
李子は3日前のショッピングの後の、事件(?)の事を言ってるんだ。
袋から飛び出した服をどうしようか困ってたら、男の子3人に声かけられて……
その内の1人に紙袋を差し出され、1度断ったものの、男嫌いでパニクってた私を紙袋の男子は心配してくれた。
だが笑顔でメルアドを聞かれ、私は“やっぱり男なんか大嫌い!”と叫んで逃げちゃった………
その後私が残していった荷物を届けてくれた李子に、事情を説明。
一条美名、思いっきし呆れられてしまいました…………
「気にしてなんか……ないわ」
「ウソつかないでね、美名ちゃん」
キャア!!なるべく普通に言ったのに、見事に見破られて、超睨まれてしまった!!
あーーー…李子は強いよ、色んな意味で。
「―――気にしてま…す」
潔く降参して、本当の事を吐露した。
「もう忘れなさいよぉ。ただのナンパ男の事なんか」
しかめっ面の李子にねっ?と言われても、首を縦に振れない私。
無意識にため息をついていた。
「美名っていつも前向きなのに、男の子絡みになると変わるわよね」
「前向きって言うか……意地っ張りなのかも」