我先にと納得出来てない生徒が、学園長を大声で呼び止める。
しかし学園長は最後に満面の笑みを振りまくと、幕の陰に隠れてしまった。
『で、ではこれで全校集会を終わります!皆さん教室に戻って下さい!』
男性教諭が必死にマイクを使って呼び掛けるも、効果は無し。
私はフラフラとしたおぼつかない足取りで、騒がしい体育館から出て行った。
せっかく女子校に入ったのに、共学になってしまう……
時色学園がお坊ちゃま学校だとしても、私には残酷過ぎた。
「美名!待って!!」
李子が全速力で、青白い私に走り寄って来た。
「李子ぉ~~~…何なのこの展開ぃ~~~~っ!!」
涙目になりながら、李子に抱き着く。
背中を優しくさすられると、パニックになってた心がちょっとだけ落ち着いた。
「まさか凛兎が共学になるなんてね………」
「嫌だぁ……男の子と同じ学校なんて………」
「美名……転校とかするの?」
李子の手が止まって、悲しそうな声で尋ねられる。
お父様に頼めば、転校する事だって可能だ。
だけど………
「しない……李子と一緒に高校生になりたいもの」
頭を振りながら答えた。
来年はもう高等部にあがる私と李子。
“男嫌い”だからって転校して、大事な親友と離ればなれになるなんて、こっちの方が嫌だ。
だから小学校だって頑張って卒業まで通ったんだし……
「――――…一緒に高校生になろうね?美名」
李子が遠慮がちに私に笑いかけた。
「………うん………」
頭をナデナデされ、2人で教室に向かう。
体育館から出て来た生徒が扉を開ける度、未だに騒いでいるお嬢様の声が届いた。
私も気力があったら、騒ぎたいよ……
…………この時、私はこれから更にとんでもない事態に巻き込まれるとは
夢にも思いませんでした。
学園長が突然“共学になります!”と宣言してから、学校は臨時休校。
私は毎日友達と遊んでいた。
だってもうすぐ凛兎学園が無くなってしまうんだから、目一杯遊ばなきゃ後悔するから!!
時色学園と共学になってからは、学園名は一文字ずつ取って“凛色(りんいろ)学園”になるらしい。
共学宣言があった日の夜、家にいたお父様にメチャクチャ突っかかった私。
『お父様!凛兎が共学になるの、どうして許可なさったのですか!?』
鼻息荒く言うも、父は全一条グループをまとめあげている社長。
『どうしてだろうな~~~アハハ』
軽ーくかわされてしまい、次は趣味の華道をしていた母の所へ行った。
『お母様!!凛兎……』
『あーー美名!そこにあるハサミとってくれない?後花瓶もお願い!』
『…………』
で、お次は5歳上の兄・一条 大吾《いちじょう だいご》に“凛兎が共学になるの知ってたか”と聞いたら
『知るワケ無いじゃん。お前も大変だなぁ、美名』
こう返され、知らなかったのは私だけじゃないと判明。
兄はすぐパソコンに視線を戻し、何やら打ち始めた。
『後継者も大変だよ。コーヒー貰って来よっと』
コレ、完全に嫌みだから。
毎日憂鬱な気分で過ごしていた臨時休校4日目………
『久し振りにショッピング行かない?』
李子から電話がかかって来て、服でも買おうと外に出た。
5月の爽やかな日差しが、キラキラと私を照らすけれど………
「ハァ……」
落ち込み街道まっしぐらの私の足は、鉛みたいに重かった。
「何の為に凛兎学園入ったのよ私は…時色学園の学園長のバカ………」
写真ですら見た事無い時色の学園長を呪いながら、李子との待ち合わせ場所に向かう。
(↑呪……?)
谷内が『お嬢様、お車で』って言ってくれたけど、歩きたい気分だった。
暫く歩くと、李子との待ち合わせ場所に到着。
「おはよう美名。何今日“も”暗い顔してんのよ」
キレイな顔をイジワルな笑顔にして、李子がからかって来る。
だがもはや私には、李子に対抗する気力も無かった。
「暗くもなるわよ………共学撤回にならないかな……」
「後3日後には凛色学園になるんだから、あきらめなさい」
李子も共学にはビックリしてたが、すんなりとこの緊急事態を受け入れ、3日後の式典までの臨時休校を楽しんでいる。
のん気に楽しんでんじゃないわよーーーっ!!
ナワアミをしょって、下から李子を睨む。
「まあまあ美名、今日は楽しくお買い物しよっ♪まずはあのお店行こう!!」
私の渾身の睨みは、李子には通じなかった………
今年で3年目のつき合いで、李子は私の扱い方を大分マスターした模様。
「…………分かった、行こう」
これ以上喚いてもムダだと判断し、大人しくついて行く事にした。
「美名、予算何円持って来た?」
「10万円……かな?」
「私15万!!買うわよーーーー!!」
相変わらず李子はショッピングが大好きだなぁ………
ホテル経営で輝く伊集院家の令嬢だから、大人っポイ服が好みなのよね。
ちなみに私は、キレイ系よりカワイイ系の服が好き。
メチャクチャピラピラブリブリしてるのは、抵抗があるけど。
まず1軒目のお店に入り、お目当ての洋服を物色する私と李子。
「コレ、李子に似合うんじゃない?」
「んーーー…ちょっと私にはカワイ過ぎるかな?美名の方が似合うよきっと」
そう言って李子は私に次々と服をかざし、ムゥーーッと唸る。
アンタ今日、自分の洋服買いに来たんじゃないの………?
「李子、自分のヤツ選ばないの?」
棚に山盛りになった李子チョイスの服を見ながら呟くと、李子が笑い出した。