楓は腕を引っ張っていた力を緩め、そこからスルリと腕を抜き歩き始めた。 ねぇ、今いた人は誰? こんな人太一じゃない。 こんな冷たい人じゃない。 こんな優しくない人じゃない。 あたしの知っている太一じゃなかった。 太一の顔を見るのが怖くて、ただただ視線を下へとずらした。 "誰?" "そんな女知らねぇ" "関わったことすらねぇ" 太一の言葉が胸に棘のように突き刺さったまま抜けない。