彼はまだあたしに気づかない。


転校してきたことすら知らないはず。



ツカツカとこちらに向かって歩いてくる。


あと少しであたしの前にくる!


そう思って怖くて目をギュッとつぶる。



だが目を開けると立ち止まるわけでもなくあたしの目の前をスーッと抜けて行った。



…………。



「たいちゃん!待って!」と弥生が叫ぶ。



太一は不機嫌そうな顔でこちらを振り向き、


「高橋、その名前で呼ぶな。何度言や気が済む。もうガキじゃねぇの」


弥生の言葉をズバッと切り捨て冷たい視線で弥生を睨みつけ、また進もうとする。