知ったところで、苦しいだけだ。

俺の想いには気づかない彼女は、倖せそうな微笑みを浮かべている。
こんなに胸が締め付けられるなんて、俺なんて馬鹿なんだろうか。

きっと自由はこれから先、貴志と同じ気持ちをわけあって、一緒に笑って生きていく。

俺の知らないところで、抱き合って、唇を重ねあって、ひとつになる。

俺の知らない、自由を、貴志はどんどん知っていく。

ああ、くそっ。
わかっていたけど、この笑顔をみると余計に辛くなるんだな。

好きだ、好きだ、好きだ。
心と身体が叫んでは、胸が苦しくて。

「…克木?」

知らぬまに、黙りこくってしまっていた。
自由が俺の顔を覗くように見ていた。

ここで手を伸ばして、衝動的に抱き締めてしまいたい。
そうしたら君はどうするだろうか?
驚いて、拒絶する?

いや、自由は、なにもわからずきっとこう言うんだ。
「どうしたの、克木?」
そっと抱き締め返してね。

だけど、そんなことされたら俺がもたないから。

「わりぃ、昨日遅くまで遊んでたから意識飛んでたわ」

笑顔をつくって、自由の頭に手をのせた。
自由は慣れた手つきでそれをほどいて「なんだ、心配しちゃった」と、微笑んだ。