次の日の朝、重たい目蓋をこすって朝目覚めた。
鏡を前にしてみるとメチャクチャな顔をしていた。
目蓋は腫れあがって髪は跳ね放題。
急いで顔を洗って髪を整えたけど目の腫れはひかなかった。
人は泣きすぎると目が腫れるって本当だったんだな、と思いつつ横をみると早くしろよと言いたげな表情を浮かべた弟、睦月が立っていた。

「あ、わりぃ。待たせちゃったな」
「いや…」
平気だというように軽く手を振って睦月は洗面台の前に立って顔を洗った。

俺は睦月の後ろを通って洗面所を出た。

―…だめだ。

頭が痛い。
まるで頭の上に鉛がのってるみたいに重さも感じる。
瞼もしっかり開かないし…。

学校を休もうか?
そんな考えが一瞬だけ脳裏をよぎった。
だけど自由は?
自由はたぶん俺と話をしたがるだろう。

昨日は自由を待たずにかえっちまったしな。
瞼はなんとかしよう。

「…よしっ」
気合いを入れて深呼吸。
それから着替えて朝食にしよう。
学校に着く頃には腫れも少しはましになってるだろうよ。

「克木」
朝食にしようとリビングに着いた瞬間、睦月の声。
それから目の前に垂れ下がる何か。

「…ティーパック?」
独り言のように尋くと、ん。といって睦月はそれを差し出した。
何に使うんだろうと聞こうとした瞬間に睦月がその答えを口に出した。
「目。腫れがひく」
「あ、ありがと」

睦月はふっと微笑んで自分の部屋に戻っていった。
睦月は、理由を聞かなかったな…。
ティーパックを見ながらふと思う。

パックは煎れたてではないのか、よく冷えている。
むしろ冷蔵庫でよく冷やしたような冷たさだ。

昨晩から、睦月は気付いてたのか…?
だから用意をしてくれてたんだろうか。

じわりと涙が流れかけた。

だめだ、泣いたら。
また瞼が重くなる。

俺は黙って目を瞑り、パックを瞼の上に置いた。