そういえばそれを洋に言ったことがある。
あたしなんかでいいの、って。
そしたらちょっと悲しそうな顔、してたなあ。
「……愛実ちゃん?」
「……洋。」
でもホラ、今だって。
――“あ〜湊川くんカッコイイ…”
――“あの声で名前呼ばれたら、死んじゃう。”
――“…なんで、あの子なの?”
――“湊川くんの彼女はもっと綺麗じゃなきゃねえ?”
ホラ、ね。
やっぱり、みんなあたしじゃ役不足だって思ってる。
………なのに。
「愛実ちゃん。今日は、ひざ枕してね?」
「へ?なんで………」
「だって、甘えたいんだもん。」
だもん、って…
目を伏せていると。
耳元に洋が近づいた。
「……愛実ちゃんに、ひざ枕してほしいな。」
……糖度たっぷりの声は、心臓に悪い。
カレは、甘えたい気分らしい。
……あたし、に。
「……お、おじゃまします。」
「はーい。どうぞあがって〜」
……洋のにおいだ。
「おうちの方は?」
「んーとね、旅行!」
りょ、旅行ですか…
「…じゃなきゃ愛実ちゃんお泊りなんかしてくれないでしょ?」
「………。」
そりゃあまあ。
今日は洋の家に遊びにきた。
……いや、正確にはお泊りなんだけど。
「部屋は真っすぐ行って右だから。適当に座ってて?飲みもん持ってくる。」
「ん。」
ということで洋の部屋に入ってみたけれども。
…洋のにおい……
はっきり言うと、落ち着く。
窓際にベッド、机の上にはマンガ。
クローゼットはすこーし開いてる?
……あ、靴下はっけん。
「ごめーん。麦茶でよかった?」
「あ、うん!」
「あれ、座ってなかったの?」
…だって意外と部屋が汚いんだもん。
「散らかってるもんね〜。ごめんね。一応片付けたんだけどさ。……うわ、靴下。」
……洋って意外と抜けてる。
完璧っぽいんだけどね。
学校では王子、なんて呼ばれてるんだけどね。
……こんな一面を知ってるのは、あたしだけかな?
「あ〜もう。ちょっと愛実ちゃんベッドに座ってて。掃除機もってくる!」
「え、別に散らかってても大丈夫だよ?」
「ダメ!俺が掃除出来るんだってとこ見せとかなきゃ!」
なんじゃそりゃ。
それから掃除機をかけて、クローゼットの中に服とか詰め込んでた。
……くしゃくしゃの制服が見えたことは黙っとこう。
「はーっ。終わり!ちょっとは綺麗になった?」
「うん。」
はい、と言って渡された冷たい麦茶。
あ、洋のコップと色違いだ。
それから買ってきたケーキを食べたり、初めてのゲームをしたり。
……洋に惨敗したけど。
「やーった!また俺の勝ちね?」
「……むう。」
なんで勝てないんだろう。
コツは掴んだのに。
「愛実ちゃ〜ん、お腹すいた。」
「ん?」