さっきまでざわめいていた森の木の音も、遠くの獣の声も聞こえない。

耳が痛くなるほどの静けさの中

空に浮かぶ2つの新月が惹きあうように重なっていく―――

辺りはさらに薄暗闇に陥る。

そうすると、草原のあちらこちらに粒のような光が灯り始めた。

光っているのは金色の綿帽子のような花。

あちらこちらに点在していた光の粒は、徐々に草原いっぱいに波紋のように広がって行く。


やがて辺り一面は眩しいくらいの金色に光る海となった。

「きれい・・・・」

その光景にそれ以上声も出せず、ただ息を飲む。


―――ポッ・・・・・。

すると、どこからともなく微かな音が聞こえてくる。

何かが弾けるような小さな音。

ポッ・・・ポワ・・・・ポ・・・ポウ・・・・

競うようにあちらこちらから響いてくる音とともに、光る綿毛が綿帽子から弾けるように空に舞う。

綿毛を飛ばした花は衝撃でゆらゆらと光りながら揺れている。

草原いっぱいに光る綿帽子がさざ波のように揺れる。


綿毛が弾け飛び空に舞い上がるその様は、まるで蛍が一斉に飛び立っていくかのように美しい。

舞い上がった光る綿毛は、満天の星空に溶け込んでゆく・・・。

そして、それは空高く舞い上がると、徐々に光を失いながらゆらゆらと地面へ落ちていく。

まるで流れ星のように、光の痕跡を残しながら―――


いくつかの綿毛が消えゆく運命から逃れるようにこちらに飛んできた。

目の前をゆらゆらと漂いながら、儚い光を瞬かせている。

思わず手を伸ばして、掌でそっと包みこんだ。

掌の中でそれは産毛ほどの柔らかな毛の先に、仄かな光を灯している。

今にも消えそうに刹那的な光を放つそれを、そうっと息を吹きかけて空に返した。

再び空に舞ったそれは完全に光を失い、柔らかな草の上にふわりと落ちた。


「・・・この時期の新月の重なり合う夜、つまり今夜だけ綿帽子を飛ばす。ラステア城で夜の湖を見たとき、ここを思い出した。君に見せたくて・・・慣れない馬に疲れただろう。途中怖い思いもさせてすまなかった」


「そんな―――こんな素敵な景色が見られるなんて・・・こんな気持ちになったのは久しぶりです。ありがとうございます」


嬉しくて堪らなくなり感謝の気持ちを伝えたくて、迷わず胸に飛び込んだ。