目を瞑ったまま、一定のリズムで刻まれる揺れに身を任せる間、聞こえてくるのはサクサクと進む馬の足音と枝を揺らす木々の音。

それに遠くから聞こえる獣の恐ろしい声。


「この先、少し揺れるから気を付けて」

何か障害を越えたのだろうか、急にがくっと大きく揺れる馬の背。

「きゃっ・・・」

目を閉じているため、急な動きに身体が対応できない。

大きく揺れた身体が馬から滑り落ちそうになる。

「口を閉じていた方が良い。舌を噛むといけない。少し、苦しいかも知れないが許せ」

言いながらさっきよりも腕に強い力が込められ、がっしりと身体が支えられた。

その後、何度か障害を乗り越えるような動きがあったものの、身じろぎ一つ出来ないほどに支えられた身体は、揺れ動くことが無くなった。


どれほどの時が経ったのだろう、急に馬の歩みが止まった。

「良いか・・・動かないように」

囁く様に言うと、腕がスッと身体から離れ、サクッという音をさせ馬を下りた気配がした。

そして、馬の周りをサクサクと歩く足音。

その足音が遠ざかっていく。

何かカタカタと音をさせた後、足音は再び此方に近づいてきて止まった。


「手をこちらへ・・・ゆっくり、大丈夫落としたりしない」

膝に置いていた手がふわりと引っ張られる。

あっと思う間もなく、誘導されるまま、身体は馬の背から滑り落ち、アランの腕の中へと移動した。

そのまま数歩移動すると、草の上のような柔らかな地面に下ろされた。


「目を開けてごらん」

囁くような声に反応してゆっくりと目を開く。

瞼の隙間からゆっくりと広がる薄闇の森の景色。

アメジストの瞳いっぱいに広がるのは、辺り一面の草原。

風に揺られてサワサワと音を立てている。

なんだかさっきまでいたあの川の場所よりも、暗くなった様な気がする。


「どうやら間に合ったようだ・・・見ててごらん」

ホッとしたような言葉とともに、草原に吹きわたっていた風が止み、遠くで聞こえていた獣の声も聞こえなくなった。


辺りが静寂に包まれる―――