開かれた門の先には、森というだけあり、人が立ち入ることを拒むように所狭しと木が立ち並んでいる。

漸く馬が通れるほどに造られた道、光の全くない暗闇の中を進んで行く。

ランプに照らされる仄かな明かりに、言葉で言い表せない形の葉を持った木や、くねくねと渦巻く様な幹をを伸ばした木などが浮かび上がっては消える。

目に入るものすべてが珍しく、キョロキョロと忙しく瞳を動かす。

木の間を縫うようにして作られた道には草が生い茂り、馬が歩みを進めるたびにサクサクと音を立てる。

両脇には風に揺られてざわざわと枝を揺らす木々。

その黒い木々の奥からは、聞いたこともない様な獣の声が響いてくる。

その牙をむくような鳴き声に恐怖を覚え、アランに気取られないよう、ショールで身体を守る様にキュッと掴む。

―――怖い・・・・。

「大丈夫だ。あれは襲ってはこない」

気付かないうちに震えていたのか、囁く様に言うとともに、手綱を持っていた腕が腰にまわってきてグッと引き寄せられた。


暫くすると草を踏む馬の足音とは別に、ぴちゃぴちゃと水の流れるような音が聞こえてきた。

その音は次第に大きくなっていき、やがて、目の前の木々の間に小さな川が見えてきた。

そこは川があるためか、木の枝が空を塞いでいないため明るい。

暗闇に慣れていた瞳を眩しげに瞬かせる。


川のほとりには叢が広がっていて、綺麗な青白い花がところどころに咲いているのが見える。

その花弁の上には白地に青い模様の綺麗な蝶が数匹止まって、美味しそうに蜜を吸っている。

その羽がぴくぴく動くたびに、月に照らされた青い模様がきらきらと光る。

蜜を吸い終わった蝶は別の花へと移動するべくひらひらと舞い上がる。

その羽が動くたび輝いて、空に蝶の名残を残す。


「・・・あの花は”月菜草”と言って、月明かりの中でしか咲かない。満月の頃には辺り一面満開になる。その時また見に来ると良い」

「月夜に満開の花・・・素敵・・・」

ここが辺り一面、花で埋まるのを想像するとワクワクする。

さっきまで不安げだったアメジストの瞳は、月明かりの中キラキラと輝き始める。


「もうすぐ目的地だ。今から私が良いというまで目を閉じていて欲しい」

「え・・目を?」

この先を進むのに、目を閉じるのはなんだかもったいない気がする。

もっときれいな花や、珍しいものが見られるかもしれないのだ。

見上げると、ブルーの瞳が無言で此方を見つめている。

目を閉じるのを承諾するまで、全く動く気配が無い。

きっと、なにか特別な事情があるのだろう・・・。



微笑みながら頷くと、俯いて目を閉じた。