「この辺りにはいないようだな」
「はっ、アラン様。賊はすでに国境に向かったと思われます」
「国境にはウォルターがいる。何かあれば知らせがあるだろう」
アランと呼ばれた青年は深い森の少し開けた草原に数人の部下たちといた。
腰に剣とロープを下げた兵士らしい男たちと先ほどから険しい顔つきで言葉を交わしている。
昨夜城に入った賊を追いかけて来たのだが
暗闇にまぎれて逃げる賊を見失ってしまったため
昼間の捜索に切り替えたのだが
すでに賊はこの森から出てしまったのかもしれない
この、シャクジの森はわが国の保護区だ。
普段立ち入ることができるのは王族と保護を任されている者のみ。
これ以上奥に進めば方向もわからなくなる。
ひとたび迷い込むと抜け出すのは難しい
部下にこれ以上森の中を捜索させるのは危険すぎた。
それにもう日が西に傾き始め、辺りは暗く、視界も悪くなってきた。
アランと呼ばれた青年は深いブルーの瞳を思案気に震わせた。
「戻るぞ!」 そう告げると、
肩甲骨まである銀色の髪を揺らしながらひらりと馬に乗り
部下を従えて森の小道を進んで行った