「思い当たらぬか?時間はたっぷりあるゆえ、ゆっくり思い出すが良い。だが・・・そう、だな・・・考えるに、あれは馬車の中でした私の話と関係があるようだが?」


「ぁ―――」


計らずも声が漏れてしまう。

言われて一つ思い当たったことがある。

けれど、あれは呟きではなくて・・・。

目の前にある怖い瞳を見てぶるっと震える。

どう考えても、あと残るのはこれしかない。



「思い出したか?」


「はい・・えっと・・・たしか、馬車の色は白でいいのですか?です。でも、アラン様。これは呟きではないわ」



おずおずと言ってすぐに目をそらすと、身体を支えてるアラン様の腕がぴくんと動いた。

とても低い声がする。




「そう。確かに、呟きではないな。だが、私の欲した答えはそれだ」



片腕でしっかり抱え直された身体がピタリとアラン様にくっつく。

長くて武骨な指先は顎に添えられて、俯いていた顔を上に向けられた。




「君は、何故そう思う?色は、あれで良い。あれしかない。どういうことだ。君の考えを私によく分かるよう、はっきりと申してみよ」



問い質すアラン様の口調は早くて、まるで尋問のよう。

悪いことをした部下を叱るような。

けれど顎から伸びた長い指先は優しく唇に触れてくる。

その差にちょっぴりの愛情を感じるけれど、やっぱりどうにも怖い・・・。




「あ・・あの、白は正室の色でしょう。・・急いだから、色を間違えたのではと思ったのです。けど・・・ルーナぁ―――ん・・・ん・・」



続くはずの言葉はアラン様の唇にのみこまれた。

唇を割って中に侵入してきたアラン様が何度も絡まっては優しく唇を吸う。

あまりに心地良くて、身体の奥と頭が痺れてしまって気が遠くなりそうになる。

アラン様の服を掴んでなんとか気をもたせるも、だんだんに力が抜けてしまう。

轍とアラン様が出す音と二人の息が馬車の中で和音となって響く。

いつもと違って長い上に、息をするのもままならないほどに激しく侵入されて、次第に何も考えられなくなる。

まるごとを逞しい腕の中に預けて、リップ音を最後に離れていくお顔をぼんやりと見ていると、濡れて光る唇が、やはり、か・・と呟いた。