馬車を見ながらしみじみとお話してくれる綺麗な唇が、緩やかな弧を描く。

本当に美しいお方だわ。


「あ・・でも、ルーナさん。馬車の色は白でいいのですか?」

「当然です。この色でなければ駄目です―――あぁ、もちろん。皇后様になられれば、塗り替えますわよ。でも、それは、まだまだ先の話です」


内緒の声で茶目っ気たっぷりにウィンクするルーナさん。

どうも間違えたわけではないみたい。

ということは・・・。



「エミリー、そろそろいとまをせねばならぬ。ルーナ、遅くまでご苦労だった。良い出来であったと職人たちに労いを頼む」

「承知致しました。有り難いお言葉、彼らも報われるというものです。正直、連日ヘトヘトでしたのよ?後は、内装など細かい調整を済ませまして、必ず婚儀までに納品致します」






にこにこと微笑みながら手を振るルーナさんと職長にお礼と別れを告げて、馬車は城への道を進み始めた。

城からはとても遠い場所。

今から帰れば真夜中だわ。城の皆はぐっすり夢の中ね。



「アラン様は毎晩、こんなに遠くまで来てたのですね。お帰りが遅いはずだわ。なのに、あんな誤解をしてしまって・・・わたし・・ごめんなさい」

「いや、それはもう良いと申した筈だ。それに、出先はベルーガだけではない。他にもいくつかの場に訪れておる。中には城に近いところも・・・だが、それももう今日で仕舞いだ」

「そうなのですか?他にはどこに、行ったのですか?」


「大まかに申せば出先は3か所あった。ベルーガ、フレール、カルモク。昨日までに用は全て済んだゆえ、後は待つのみ。ベルーガは、ステップの調整をするからとルーナが君の同行を願い出ておった。君の身長など、細部にわたり伝えてあったゆえ必要ないと考えてたが・・・。昨夜の出来事でこれを機会にと連れて参った」



おかげでルーナにも紹介できたし、出掛ける予行演習にもなった・・・だが、申した通り、良いところではなかっただろう?と言われて口ごもりながらも、はい・・とお返事を返す。

でも、予備知識さえあれば、あんなおかしなことは考えなかったし、怖い思いもしなかったわ。


唇を尖らせて見上げると、何も聞いてないのにわたしの疑問すべてに答えてくれた。



「いや、ベルーガは確かに夜は不気味ではあるゆえ、気にやむことはない。屋敷の向こう側にあった四角の建屋は倉庫。草原のような庭にあるコースは試運転用だ。君にはさぞ不思議な場所に思えただろうな・・・」


庭と呼べるものは何もないゆえ・・と言ってフッと笑う。


「でも、ルーナさんも、馬車も素敵でした。また是非、連れて行って下さい。今度は昼間がいいわ」


「昼間か・・・」と呟くお顔を見て、次回は約束通りにお泊りさせて下さい、というのは黙っておくことにした。


それよりも、他の2ヵ所が気になる。



「ベルーガは分かりました。後は・・そこには、何のために行ってたのですか・・?」