屋敷を周るように進んで行けば、だんだんにどこに向かっているのかわかってきた。

最初に見た、煌々と光り輝くあの建物に向かってる。

行く道すがらに、庭と呼ぶには広すぎる草原のようなところをふと見ると、サワサワと風に揺れる草の向こうに円を描くような道があるのが見えた。


月に照らされるそれは、子供のころに行った遊園地の小さなコースに似てる。

あれよりも道幅は格段に広いけれど、何の道なのかしら。



そういえば、あのときはパパと一緒にカートに乗ったっけ。

小さなわたしは運転させてもらえなくて、ぷぅっと膨れてしまったものだから、ご機嫌取りにアイスクリームを買ってくれたことを思い出すわ。




「人払いはしてありますが、職長だけはお許しいただきますわ。さぁどうぞ」



建物には、大きな両開きの扉と通用口のような小さな扉があった。

小さな花壇の脇にある小さいほうの扉を開けてくれるルーナさん。

どうぞと言われて中に入ると、倉庫のような、柱も天井もない広い空間が広がる。

隅に道具を入れたような棚があるだけで、真ん中に置かれてるもの以外、何もない。


一人の男性が引き攣った笑顔を浮かべて立っているのが見える。

あの方が職長さんかしら。

待たされて怒ってるみたい?

それとも、アラン様がいるから緊張してるのかも。




「職長、随分お待たせしましたね。アラン様、ご覧の通りまだ色は塗ってありませんの。彼が、お会いしてから決めましょうと申しまして―――・・ご正女様、どうぞ近付いてご覧ください」

「え?わたしが・・・ですか?」

「はい。どうぞ―――下には何も落ちてないはずですが、一応足元にお気を付け下さい」

「・・・はい」



素直にお返事をしながらも、きょろきょろしてしまう。

見るのは、これでいいの?

目の前にあるものが信じられなくて目を瞬かせてしまう。

広い建物の中にはどこをどう見てもそれ一つしか置かれていない。

アラン様のものにしては小さくて、柔らかな曲線のデザインも装飾も可愛いこれは―――



「アラン様?これは・・・あの―――」

「あぁ、じっくり見るが良い。駄目なところはすぐに申せ」



―――ダメなところ?―――



「職長の傍にどうぞ・・・ぴったりと合うよう調節をせねばなりませんので、こちらまでおいで下さい」


「こ・・こちらに・・・あぁあの・・・あ、脚をここに乗せてみて下さい」



緊張感たっぷりに指し示された場所に脚を乗せてみると、今日の装いでもすんなりと楽に体重移動が出来た。


具合はどうですかと聞かれたので、大丈夫です無理はありませんと答える。

扉があいているので中も見る事が出来た。

クリーム色の壁に赤い椅子。

窓にはレースのカーテンもかかってて、外観と同じく一目で女性用だと分かる。

アラン様が毎晩お出掛けしていたのは、これを作るためだったの?


誰のものなの?まさか―――