「外に参るゆえ・・」と言いながらマントを羽織らせてくれるアラン様。

ルーナさんのお話は聞こえてるはずなのに、なんとも言ってくれない。




“たまには甘えてみたら・・我が儘を言ってみたらどうです”


メイ、あなたの言う通り、お願いすれば許してもらえるのかしら。

ダメだと言われる可能性の方が、とても大きいけれど・・・。



「ぁ・・・アラン様?泊っても、いいですか?」


勇気を出して言った言葉が、すっぽりと被せられたフードの中に吸い込まれた。

アラン様?と呼べば、小さな吐息が聞こえてくる。



・・・やっぱり、ダメなの?

残念な思いを瞳に込めて見つめてみる。



―――わたしも、ルーナさんとゆっくりお話したいわ―――



「――っ・・・、今宵・・君を外泊させるには、準備不足だ。警備も不十分。メイやナミがおらぬのに、一人置いて行くわけにはゆかぬ。それは、分かるな?」

「・・はい。でもアラン様?わたし身支度は一人で出来るわ。故郷では全部一人でしてたもの。それに、お迎えが来るまでひっそり隠れていればいいのでしょう?だから」

「それでも、無理だ。・・・私は、日頃から君に申しておるだろう?」



すまぬが私の心をくみ取って欲しい、と言われて、頬にいつものぬくもりを感じながら記憶をたどる。

アラン様の手は自分の胸を差し示してる。

いつも、言ってくれること―――



「兎に角、今日は許可出来ぬ。必ず、別の日を検討する。それで良いな?」

「・・・はい」

「ルーナ、そういうことだ」

「・・・婚儀前の今ならばと思いお誘いしましたが、急な申し出ですから仕方ありませんね。・・・ご正女様、別の機会に致しましょう。・・さて、あちらでは職長が待ちわびておりますね。私も彼に謝罪をせねば―――では、皆様。参りましょうか」





入ってきたときと変わらずにひっそり静まった廊下。

やっぱり誰もいないように思える。

けれど、ルーナさんは独りで住んでるわけではないみたい。

使用人さんたちは、一体どこにいるのかしら?



しずしずと先導するルーナさんは外に出ていく。

ここが何なのか結局教えられないまま。

このお屋敷が病院ではなくて『ベルーガ』という会社だとは分かったけれど・・・。

アラン様が見たい物が何なのか分からない。

パトリックさんも知ってるみたいだし、わたしだけが教えられてないみたい。

さっき勇気を出して言ってみた我儘をきいてもらえなかった哀しさもあって、ついむっすりしてしまう。


わたしだけ教えてもらえないんだもの。

アラン様ったら、ほんとに意地悪だわ。



身体ごと包み込むようにしっかりと逞しい腕に押さえられ、視界はフードを被されててとても狭い。

前を見ればパトリックさんの広い背中、見上げれば満点の星とリンク王様とシェラザード様の月。

広大な庭を歩く足音と小さな虫の鳴き声だけが聞こえてくる。