「貴方様はお黙り下さいませ」


鍛えられた兵士さん達でも怖れるのに、怯むことなく毅然とする姿はとても素敵で、さすが国王様のお姉さまだと感心してしまう。


「ご正女様?今のご住まいはどちらですの?まだ、塔のお部屋に?」

「―――はい」塔に、と言いかけた言葉が大きな掌に遮られる。


「すまぬエミリー、君は何も申さずとも良い。・・・ルーナ、その件。貴賓館では十分に守れぬと申した筈だ」

「ですが、アラン様。先日の折にお願い申しあげた約束事が守られておりません。睡眠不足などと・・どう考えてみましても貴方様のせいでしょう。まだ婚儀前なのですよ」

「っ・・・それについては、忠告されてより最大限に自重しておる。・・・だが、それは住まいの件とは別の話。塔でなければならぬ」



毅然としながらも窘めるような口調のルーナさんに対して、出してる声に最初の勢いが無くなったアラン様。

それは珍しくもしどろもどろな気がして――――

見上げればさっきと変わらない不機嫌な表情と、向かい合う真摯なお顔。


「まぁ、自重などと仰って。婚約前から正女扱いされてると伺いましてよ?だから貴賓館へと申し上げたのです。私以外どなたも進言なさらないと思いますが、まだ完全に貴方様のものではないのですよ。今もその様にされていらっしゃるのに・・・。どう考えても無理でしょう」



国にとっては大変喜ばしいことですが、と言ってわたしを見るルーナさん。



「・・無論、同意は得ておる。心配無用だ」

「まぁ、本当ですの?ご正女様、ご無理、なさってませんか?この我儘様に、たまにはガツンと言っても良いのですよ。貴女様なら効果は絶大でしょう」

「ぇ・・・っと、ガツンと、ですか・・・?」



ルーナさんもメイと同じことを言うわ。

人から見ると、そんなに無理してるように見えるのかしら。

確かに忙しいけれど―――


「だいじょうぶです。無理はしてません」



ここで、やり取りを無言で聞いていたパトリックさんが急に噴き出して、くっくっくと笑いだしたので全員が振り返り見た。



「いや、笑ってすまない。ルーナ様、モーガン嬢は戸惑っておられます」


「えぇ、その様ですね・・私としたことが申し訳御座いません」


「ですがルーナ様、よく進言されました。なかなか言えないこと、私からもお礼を申し上げます。・・・アラン、どうやら君の負けのようだ」


「パトリック・・・だが、彼女は」


「あぁ、分かっている。確かに貴賓館では守り難い。・・・ルーナ様、住まいに関しては仕方のないことではありますので、ご勘弁を願います。・・・・それよりも、夜が更けていきます。お早く本来の用件をすまされた方が宜しいでしょう」