口元を隠した細い指の間からコロコロと愉しげな笑い声ももれる。



「それですと、ご正女様?アラン様が仰った“先程のその先”については全く分かりませんわ。・・・ですが、お礼を言わねばなりません。有り難う御座います。大変良いものを見せて頂きました」


茶目っ気たっぷりにウィンクして、にっこり微笑みながら手招きをするルーナさん。


「此方にお座りくださいませ、少しお話を致しましょう」



腰を支えてるアラン様の手にそっと触れて「いいですか?」と聞いてみると「・・・仕方あるまい」と少しだけ力が緩まったので、それをよいしょと退けてソファに腰かけた。



「・・・良いものといいますのは、アラン様のことです。あの方があんな風に穏やかに接する姿など初めて拝見致しましたの。城の者から噂は届いておりましたけれど、この目で見るまでは全く半信半疑でしたのよ?」

「そうなのですか?」

「えぇ、そうなのです。いつもは・・・そうですね。こう・・無表情に、むっつりしてますの」


“むっつり”の部分を強調するルーナさんの顔はとても嬉しそう。

内緒の声で聞けば、それ以上のひそめた声で返ってくる。

赤ちゃんのころのお話をお聞きしたいけれど、結構お耳のいいアラン様のことだもの、きっと遮られてしまうわ。




「そろそろ良いか。夜が更ける」

「・・・そうですわね。あ、ところで、アラン様。フレールにはお連れ致しませんの?あちらのご主人も“是非”と願っておりました」

「フレールは先日に済んだゆえ。こことは違い、同行させる必要性を全く感じぬ」

「そうでしたわね。私も、今宵ほどこの家業を嬉しく感じたことは御座いません。急な要請には大変戸惑い驚きましたけれど、これで納得出来たというものです」


ルーナさんの輝く瞳が、差し出されるアラン様の腕の行方をすー・・と辿る。

手に掴まって立ち上がったところを見計らったように、同じく立ち上がったルーナさんがずいっと近付いた。



「だからこそ。余計に、心配なのですが―――ご正女様?」


さっきまでとは違う真摯な顔が向けられたので、わたしも居住まいを正して応えた。



「・・ひとつ、お訊ねしますわね?・・居は、貴賓館に移されました?」

「・・・はい?」


・・・きひんかん・・って。

マリア姫達が泊まった客室のあるところ・・・そこに?


「ルーナ。その話はならぬ」



急に引き寄せられて、背中にぽすん・・とアラン様の体が当たる。

凛と響いたテノールの声に驚いて後ろを見上げると、不機嫌そうなお顔が目に映った。



「ですがアラン様、これは大事なことなのですよ」


ぴしっと背筋を伸ばしてアラン様に向かい合うルーナさん。

わたしの頭の上で二人の視線がぶつかりあう。