「どうぞっ、此方でお待ち願いますっ」


静かな中突然に野太い大きな声が廊下に響き渡るものだから心臓がドキンと跳ねあがるのと一緒に身体もびくんと飛び上がる。

声が出そうになったのをてのひらで抑えて必死でのみこんでいると、素早く動いた腕の中にすっぽりと入れられ、そのまま抱えられて攫われるようにして部屋の中に入り込んだ。

驚きすぎて瞳には涙が滲み出て、安心出来る腕の中にいてもまだドキドキは止まらず身体は震えてる。


・・・アラン様、ほんとうにここは何??・・・




「エミリー、平気か?」


何度も問いかけてくれるアラン様。

大きな掌で優しく背中を摩られ続けて徐々に息が整ってくる。



「・・はい。なんとか・・ありがとうございます・・もう、だいじょうぶです」

「うん。アラン、もう良いんじゃないのか?そろそろ来られるぞ」


腕が緩められたのでパトリックさんを振り返り見ると、腕を組んでアラン様をじっと見つめていた。

いつも優しげに輝いてるブルーの瞳が鋭く見えて、ちょっぴりご機嫌斜めに感じられる。

パトリックさんがこんな表情をするなんて・・・。

わたしがあまりにも情けないから怒らせてしまったのだわ。

今日はたくさん迷惑をかけたもの、あとで必ずきちんと謝ろうと心に決めてると、身体の前に大きな掌が差し出された。



「・・・エミリー、マントをこちらに。そろそろ屋敷の主が来るゆえ」


促されるままに急いでマントを脱ぎ畳んで「おねがいします」とアラン様に手渡したあとお部屋の中をゆっくり見回してみる。


豪華ではないけれど飾り彫りの施された調度品は丁寧に磨かれてて、シンプルなソファセットの中央に置かれたテーブルには可愛い一輪挿しが飾ってある。



「君は、先程と同じく普段通りでいれば良い」



アラン様の声を聞いたのでハイとお返事をしてると、ノック音のあとに開けられた扉の隙間から綺麗な声が漏れ聞こえてきた。


「これ、覗いてはなりません。貴方は下がっていなさい。王子様のご不興を買いますよ」

「す、すみませんっ、奥方様っ」



窘める女性に対して懸命に謝る野太い声。

細い隙間に見え隠れするのはラベンダー色のドレス。

それがゆらゆら揺れたかと思えば、静々と一人の女性が入ってきた。



「アラン王子様、お待たせして申し訳御座いませんでした」

「良い、構わぬ」

「今宵は珍しいお連れ様がお見えで、私も心が弾んでおります。こちらは・・・ようこそ御出下さりました。ラムスター様、随分と久方ぶりですね。セレムの葬儀以来かしら?」