・・・「エミリー、平気か?」


今いるのは、ルーナさんの屋敷の部屋の中。

アラン様の腕にすっぽりと包まれて、大きな掌で背中を優しく摩ってもらってる。

涙目で震えながらもコクコクと頷くわたし。

パトリックさんも心配げに「大丈夫かい?」と訊ねてくれる。

声は近いから、見えないけれどすぐ後ろに立ってるのがわかる。

どうしてこんな事になってるのかといったら。

わたしがおかしなことを考えてしまったのが、原因のひとつなのだけれど―――――・・・






案内されたお屋敷の中は想像していたよりも明るい。

アルスター家のような洗練されたインテリアや潔癖さはないけれど、隅々まですっきり清潔に整えられていた。

廊下には人気はなくて、部屋からも物音は聞こえずとても静か。

誰も何もお話しをしないから、それぞれが出す硬質な足音だけが不気味に響いてる。


飾り気のない扉が左右に並ぶ。

雰囲気で言えば、まるで夜の病棟みたい。

ジェフさんたちは外で警備中で、パトリックさんは相変わらず視界を遮るような体で常に前にいる。



―――案内人の姿も見られないなんて、おかしいわ。

さっきもフードを除けようとした手を止められてしまったし・・・。

お屋敷の中なのに?って首を傾げながら見上げると、アラン様は声に出さずに唇だけを動かした。


『マ・ダ・ダ・メ・ダ』


“隠れておれ”と一緒で“声を出してはならぬ”というのもまだ続いていたようで、どうして?と問いかけようと開きかけた唇が武骨な指で止められた。

窘めるような瞳が向けられて、まるでわたしが悪いことをしてるみたいに感じてしまう。


隠れるのは人目を避けるためだって思うけれど。

こんな人のいないお屋敷でもひっそり静かにしていなければいけないなんて、もしかしたら見た目そのままに病院なのかもしれない、と考える。


ルーナさんはお医者様で、左右の扉の中には患者さんが眠ってるのかも・・・。


“良いところではない”って、そんな意味だとしたら―――・・・



こくんと喉を鳴らす。

そうしたら。

もしかして・・・あののっぺりとした建物のほうには・・・。



何も教えてくれないものだから、あらぬ想像がどんどん膨らんでいく。

有り得ないことと思うけれども、以前テレビドラマで見た怖いシーンを思い出してしまって背中に震えが走る。