パトリックさんは皆が待っていると言ってたけれど、出迎えの人はまだいない。

毎晩来ているのだし、前もってお知らせがあるのだもの、お屋敷の方はアラン様が来たことわかってるはずだけれど。


・・・ちょっぴり変わったお方が住んでいるのかも・・・。


はしたなくもキョロキョロしてしまう。

お屋敷には玄関灯はついているけれど、どの窓も暗くてお部屋には灯りがついてる様子が無い。

人の気配が無いと言うか・・・。

なのに、あちらの建物は煌々と灯りが点されてる。

目的地は、本当にここなの?

さっきの問いのお返事も無いし、まさか・・と、たくさんのハテナを浮かべて見上げれば、パトリックさんが内緒の耳打ちをしていてアラン様は無言で頷いていた。

難しいお顔をしてる、わたしの声は耳に届いてなかったみたい。


それにしても、ほんとになんだかとても珍しい雰囲気。

怖いというか、怪しいというか。

あの暗闇に浮かぶ、のっぺりと無機質に見える四角い建物。

幼い頃パパが連れて行ってくれた研究所がこんな感じだったわ。

熊のような風貌の白衣の男の人が出迎えてくれて、分からない言葉を沢山並べてにんまりと笑った。

顔が埋まるほどのぼさぼさのお髭の間から覗く大きな歯。

とても怖くてスカートを握りしめて耐えてたけれど、とうとう我慢できずに泣いてしまった。

パパが苦笑いしながら宥めてくれたっけ。

長い生き物と同じく、ちょっとしたトラウマになった。


アラン様の袖をぎゅぅっと握りしめて身体をなるべく寄せる。

思い出したら少し怖くなってしまった。

もし、そんなお方が出てきたらどうしよう。

笑顔でご挨拶なんて、できないかも・・・。



「ん、エミリー、どうした?」

「どうしたんだい?エミリー。気のせいかな、少し顔色が悪く見える」



長身の二人が身を屈めて顔を覗きこむ。

ハッとして気を引き締める。

こんな気弱なことでは、この先アラン様の隣にいられない。

来る苦難を乗り越えて行かなくちゃいけないもの。

もっとしっかりしないと。



「ぁ、ごめんなさい・・・なんでも、ないです・・」



握りしめた指を解いて身体を少しだけ離した。



「――――っ、待て。動かずに。君は少々隠れておれ。ジェフ」

「え・・・かくれる??」



言うが早いか素早くマントのフードが被せられ、頭がすっぽりと覆われる。



「君は声を出してはならぬ。良いな」