わたしはアラン様に出会えたこと、この運命にとても感謝してるの。

今まで生きてきた中で、こんなに人を好きになったことも、こんなに幸せを願うことも他にはないもの。

この気持ちを持ってさえいればどんな環境に置かれたとしても、わたしはまっすぐに立っていられると思う。

ほんとはちょっぴり・・・でなくて、まったく自信がない。

昨夜あんな風に大騒ぎしてしまったもの。

けれど、アラン様のためだもの、きっと耐えてみせる。

わたしには支えてくれる人もいるから大丈夫。


“君を悲しませるようなことはせぬ”


この言葉、とても嬉しかった。

でも、この先きっと何度も苦しい立場に置かれてしまうわ。

いつかは限界がくると思うの。

そうなったときわたしに気を使わないで迷わずに決断して欲しい。

それまでに、笑顔でそう言えるように頑張って気持ちを整えておくわ。

結婚するのだもの、お暇を出されない限りは二度とあなたのお傍を離れたりはしないから。

一人で故郷に帰ったりはしないから――――



「アラン様、安心してください。ね?」


じっとわたしを見つめたまま、固まった様に動かないアラン様。

誰もずばりとはっきり言ってはくれないけれど、多分、わたしの考えは間違っていないわ。

最近のアラン様の様子がおかしかったのも、侍女長さんのしみじみなため息の理由も原因はこれだわ。

メイの宿題もこれで答えることが出来るわね・・・。




ゆるゆる進んでいた馬車は目的地に着いたようで、完全に動きが止まっていた。

逞しい体の隙間から見える窓の向こうに、煌々と灯りが点された建物のようなものが見える。

それは暗闇の中にぽっかりと浮かんで見えて―――


―――あれは何かしら?


馬車の扉が何度かノックされて遠慮がちにゆっくりと開かれた。



「アラン、そろそろいいか?皆が待っている」


「・・・今、参る・・・エミリー手を」



差し出された腕にそっと手を乗せて乗降口まで歩く。

馬車から降ろされれば目の前には満天の星空の下にポツンとあるお屋敷が広がる。

結構な大きさだけれど庭らしいものは作られてなくて、広大に見える土地は木も少なくて、まるで草原の中心にいるよう。

アルスターさんのお屋敷とは違った意味で近寄りがたく思える。

窓から見えた光る建物は左斜め後ろ側の奥に位置していた。

そこにはこじんまりとした花壇のようなものがある。

けれど、あとは目の前にあるお屋敷といくつかの四角い建物がぽつぽつと建ってるのが見えるだけ。


ここに、毎晩来てるの?



「アラン様、ここは何ですか?」