頬に置かれた手に、てのひらをそっと重ねる。

武骨で少し堅いけれど優しいアラン様の手。

国と民を守る大切な王子様の手。

ほんとうに大好きだもの、わたしだけのものにしたい。

けれど―――



「私がこのように触れたいと思うのは、この世でただ一人だけだ。――――一日でも姿が見えぬとこの心臓が痛み精神も不安定になる。そんな私の心、君は分かっておるか?」


仄かな灯りを受けて、揺れる馬車と一緒にゆらめくブルーの瞳。

徐々に近付いてくるそれは艶を含んでいて、見つめかえすだけでドキドキしてくる。


「・・・はい」


呟くように返事をすれば目の前に迫った唇から、まだ・・だな・・と途切れがちな言葉が漏れて、何のことか分からずに考えているとそれは額にそっと触れた。

二人きりのときに感じる男性の艶っぽさ。

わたしだけに向けられるもの。

この深いブルーの瞳もすっぽり包んでくれる力強い腕も、今は・・・。



「アラン様、わたしはもう何処にも行かないわ。リングを受け取ったあの日に、ずっとおそばにいると決めたんですもの」


瞳をじっと見つめる。

深いブルーの真ん中にあるのはわたしの姿。

精一杯微笑んでる。

アラン様にはどう見えてる?

幸せな笑顔だと映ってるかしら。



「アラン様・・・訂正する必要なんてないわ。わたし、ちっとも間違えていないもの。お話はきちんと聞きましたから」



―――そう。

これは、前から薄々感じていたことだもの。

今のお話でやっぱりそうなんだって確信がもてた。

しっかりと自覚もできたわ・・・覚悟だけは、まだ出来てなくて今から頑張ってしていくのだけど・・・。

だから、そんなに心配しないで。

不安に思わないで――――



「本当に、分かっておるのか?先程は、多分、と申しておった。話をした私の意をしっかりと理解したか?」

「えぇ、もちろんです」



眉を寄せて探るような瞳を向けるアラン様に再び微笑んでみせる。

婚儀前に“きちんと理解する”こと。

求愛されて今日まで妃教育を受けてきたけれど、これだけは心の奥底にずっと留めておいた。

そのときがきても無駄なショックを受けないように。

出会ったときからずっとあるもの、抗いようがないわ。



「エミリー、瞳が潤んできておる。何を、考えておる?私に申せ。間違いを正す」

「間違いだなんて―――わたしは今、こんな風にアラン様と過ごすことが出来てとても幸せだわ、と思ってるんです」