それにあのときはアラン様の幸せを願って、自分から離れたのだもの。

これは、わたしは喜ぶべきことだわ・・・。

メイドさんたちが言ってた言葉。

イライザさんもマリア姫に負けず劣らずきっと綺麗な方なんだわ。

ご三家のご令嬢で―――



「そうだ。・・・確認するが、君は今、変に間違えてはおらぬだろうな?」

「はい?」



緩められていた腕がだんだん強くなっていく。

苦しいほどに胸に押し付けられて息をするのに懸命になる。

頭を離そうとしてるのに気付いた腕が少しだけ緩められた。



「えっと・・・はい、多分・・間違えてません」



息も絶え絶えにそう言えば、笑みを含んだ声が上から降ってきた。



「多分か、まぁ良い。後程ゆっくり訂正するゆえ・・・・度ごとに丁重に断ってはいたが、やはり納得いかぬと揉めた者もいる。私の娘のどこが不服か、と。直に私に申してくることは無かったが、異国の娘など幻同然である、忘れよ、と申す者もおったらしい」



・・・そんなことが、あったなんて。

やっぱり・・・



「アルスター、彼もそうであった。彼は国の重鎮ゆえ、関係がこじれたままでは何かと支障がある。最近の懸念事項の一つであった。・・・・君を馬車から下ろす際、一瞬止まったであろう?」



これまでずっと腕の中にいた身体が漸く離されて、柔らかい微笑みを伴ったアラン様の顔が俯きがちなわたしの顔を覗き込む。

分かったか?と問いかけられた気がして、無言で頷いてみせた。



「あのとき、やはり中に戻そうと考えた。だが―――ふと父君の顔が浮かびお考えを解しそのまま降ろした。―――賭けでは、あった。君を紹介しても彼の態度は変わらぬかもしれぬ、と。最後まで葛藤しておったが、時はすでに動いておる。君にも少々の覚悟を持ってもらい、彼に会わせたのだ」



結果として、パトリックが護衛に来たのは正解だったな、と言ったのと裏腹にアラン様の眉が寄せられてる。



“つい、おろしてしまった”


・・・あれは、うっかりなお話ではなくて・・・

アルスターさんの厳しい瞳。

最後には柔らかくなっていたけれど・・・。



「大丈夫だ。その様に不安そうな顔をするな・・・成功しておる。今宵彼は君を認めたゆえ・・・」



馬車の小刻みな揺れが収まっていく。

窓の外の景色は流れが緩やかになって、馬車は止まりそうなほどにゆるゆると進んでる。



「さて、本来の目的地に着く。が、その前に、私は、君の間違いを訂正せねばならぬな?」