気を落ち着けて真剣さをアピールするよう身体をなるべくアラン様に向けて見上げる。

と、怖いほどの真摯な顔が向けられていた。

瞳から出る普段感じられない気迫。

急激にまともに触れ、気圧されてふらついたのをすかさず支えられた。

そのまますっぽりと腕の中に収められる。



「すまぬ、先程から気が張ったままゆえ。向けぬよう気をつけてはいたが・・・私も直ぐに切り替えねばな―――――平気か?」

「・・・はい」



・・・ほんとうは、まったく大丈夫じゃない。

まだ、どきどきくらくらするもの・・・。


政治のお話をするアラン様はいつもこんな風なのかも。

男の方の世界はとても厳しいのだわ。


気付かれないよう内緒でこっそり息を整えてると、アラン様がぽつぽつ話し始めたので一字一句聞き洩らさないよう集中する。



「ある一件により、アルスターと私とは少々確執がある・・・。彼のあの態度は、半分はそのせいだ。君を連れていなくとも、私は彼の皮肉をたっぷり聞いただろう。あれはまだ可愛い方だ」



道の様子が変わったのか、がたがたとゆれる馬車が時々大きく跳ねる。



「エミリー、暫し揺れるゆえ口を閉じよ。舌を噛む」



度ごとに力強く抱き締められ身体が動かないよう固定される。

その感覚に、シャクジの森に出かけたことを思い出して、ふと心が和んだ。

夜空に舞いあがるたくさんの光。

あのとき見た光景は、とても幻想的で美しくて・・・。

瞳を閉じればありありと思い出せる。

決して忘れないわ。

あの時期になったら、また、連れてってもらえるかしら。



アラン様の腕越しに『申し訳御座いません!この先ずっと馬車が揺れます。お気を付け下さい!』という御者の声を聞いた。

どうやら石畳のない田舎道にさしかかったよう。

馬車の速度も少し緩められ、アラン様の腕の拘束も次第に緩められて再びお話が始まる。




「“つい、降ろしてしまった”というのは、ある意味本当だ。反して・・・出る直前に父君に使いを頼まれた際、頭の隅でこれを機会にと考えたのも事実」


「機会?・・・何のことですか?」


「君が国に帰り居らぬ間、私には数多くの縁談が舞い込んだ。周りがどうにも煩く、国交もあるゆえ無下に断れず幾人かとは会っておる。彼の娘もその中の一人」


「娘さんって。もしかして、イライザさんですか?」




・・・アラン様のお妃にと推された方はマリア姫だけじゃない。

沢山の高貴なお方から望まれるのは、当然のことだもの。